犬に多いホルモン異常の病気で「クッシング症候群」があります。
愛犬が水をよく飲むようになって、毛も抜けるし皮膚病にも頻繁に罹るようになってしまった、何か病気が隠されているのでは、と検査してもらうとクッシング症候群の宣告を受ける、というのが発見するパターンとしては一番多いのではないでしょうか?
この病気は予防はできないし、完治することもない愛犬には悲しい罹ってしまえば一生涯の病気なのです。
だからこそ早期発見、早期治療が重要になる病気なのですが、それだけでなく愛犬のためにもどんな治療を選ぶかを考えねばいけない病気になります。
本稿がそのための参考になれば幸いです。
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クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)とは
出典元:Wholly Vet
クッシング症候群とは副腎皮質ホルモン(コルチゾール)が通常よりも多く分泌されてしまった結果、引き起こされる病気の総称なのです。
だから「症候群」が病名についています。
クッシング症候群の原因
では何が原因でクッシング症候群が起こるのでしょうか。
その理由は三つに分類できます。
- 脳下垂体に腫瘍ができる
- 副腎自体に腫瘍ができる
- ステロイド剤の長期な投与
①②は自然発生タイプであり、③は医原性タイプといわれています。
③はステロイド剤の投与を止めれば自然と治りますので治療の必要がありません。
犬のクッシング症候群の約9割近くが①の脳下垂体にできる腫瘍が元となっていますので、治療法を説明する場合は自然発生タイプがなされます。
腫瘍が悪性となれば癌と表現されますが、クッシング症候群の場合はどちらも関係なく、悪性腫瘍はまれなのです。
発症に至る仕組み
理由①
脳下垂体が血液中のコルチゾールの濃度をチェックして分泌をコントロールするのですが、脳下垂体に腫瘍ができることで過剰分泌が起こってしまうのが原因。
理由②
脳下垂体からの指令を受けてコルチゾールを分泌させるのが副腎なのですが、その副腎自体に腫瘍ができることで過剰分泌が起こってしまうのが原因。
これが解り易い説明となるのではないでしょうか。
コルチゾールとは?
では過剰分泌されることで愛犬にクッシング症候群を発症させてしまうコルチゾールとは何なのでしょうか。
コルチゾールは副腎皮質ホルモンで糖質コルチコイドの1種で、生体には欠かすことのできないホルモンなのです。
主な働きは
- 肝臓での糖の新生やグリコーゲン合成促進
- 筋肉でのタンパク質代謝
- 脂肪組織での脂肪の分解などの代謝促進
- 抗炎症や免疫抑制
- インスリンの働きの阻害
- 体内の水を保持するアルドステロンの分泌や働きの抑制(多尿)
なのですが、ストレスを受けたときに、脳からの刺激を受けて分泌が増えることから「ストレスホルモン」との別名もあり、ストレスから体を守ってくれたりもします。
インスリンの働きを阻害してしまうので、クッシング症候群では糖尿病になりやすく、インスリンでの治療にも思うような効果が現れません。
クッシング症候群の犬の併発疾患
クッシング症候群に罹ってしまうとさまざまな合併症を引き起こしてしまいます。
先ほど挙げたように、インスリンの効きが悪くなってしまうので糖尿病を併発することも多いのです。
多尿多飲から糖尿病を疑われて検査をされ、しばらくは糖尿病の治療を受けたりするのですが、コルチゾールの過剰分泌によりインスリンを投薬されてもはかばかしく改善されずにクッシング症候群を疑われる場合もあります。
その他にも急性膵炎、高血圧、細菌性膀胱炎、膿皮症、寄生虫感染、血栓症などの合併症に罹る恐れがあります。
クッシング症候群の症状と末期症状
出典元:ペピイ
クッシング症候群に罹る犬種がネットのページに載っていたりしますが、多少の違いがあっても前犬種が罹る可能性のあることに変わりはありません。
罹るのはメスが多く5歳以上であれば罹ると覚えていていいでしょう。
中年から高齢になると罹りやすいので、早期の症状は加齢によるものと判断される場合があり、治療が遅れてしまうことがあります。
クッシング症候群の症状
早期で発見できて腫瘍の肥大を抑えられれば寿命を全うすることも可能となります。
- 多飲多尿
- 異常な食欲
- 筋力が衰えて散歩に行きたがらなくなる
- 皮膚が薄くなる
などがあります。
特に多飲多尿はクッシング症候群につきものといってもよいくらいなのですが、多飲多尿になる病気はクッシング症候群に限りません。
慢性腎不全などの腎疾患、甲状腺機能亢進症、子宮蓄膿症、肝不全、高カルシウム血症、尿崩症などがあります。
自宅で尿を取ることは難しいのですが飲む量なら量れるので、110ml✕体重 以上の量の水を飲むようならすぐに獣医師を受診することをおすすめします。
クッシング症候群の症状でよく聞く、息が荒い、腹部膨満、左右対称の脱毛などはもう中期なのだそうです。
クッシング症候群の末期症状
犬の体内にコルチゾールが過剰分泌され末期状態になると免疫能力が落ちて合併症を起こしやすくなります。
コルチゾールはタンパク質を糖分になるのを促進するために血糖値が上昇してしまうのです。
血糖値が通常より高くなると毛細血管の流れが悪くなり、体の隅々にまで栄養が届かなくなるだけでなく老廃物を外に出すこともできなくなるのです。
その場合、ばい菌やウィルスを退治してくれる白血球がいきわたらなくなるので、同じ感染症に何度も罹ってしまうようになり、お薬を飲んでも問題の場所にはなかなか届かなくなってしまいます。
毛が抜けてあちこちの皮膚に感染症が起こるのはそうしたことが作用しています。
さらに血糖値が上がって糖尿病を併発すると、治療してもインスリンの効きが悪い状態なので効果ははかばかしくなく、糖尿病の合併症である神経障害も起こす恐れがでてくるのです。
血栓もできやすくなるので、血栓が脳の血管に詰って脳障害のリスクもでてきます。
複数の合併症に罹れば治療も困難になりますので、最悪死に至るのです。
クッシング症候群の治療をするかしないかの選択
出典元:天気予報
愛犬がクッシング症候群になった場合、治療法はあるのですが完治することはありません。
治療は症状の進行を抑えるあるいは遅らせるのが基本になると考えてください。
ただ早期に発見して治療が早かった場合は薬で進行を抑えられ、服薬は一生続きますが、寿命を全うしたといえるだけ生きられる犬もいます。
その場合は治療が有効だと思われますが、犬の年齢や症状の進行具合によっては考えた方が良いと思われるケースがあることも確かです。
治療しないという選択
クッシング症候群は5歳以上の犬が主に罹る病気です。
5歳という年齢を人間に換算した場合、小型犬で36歳、中型犬38歳、大型犬42歳というのが一般的ですが、その他大型犬になるほど早く歳をとっていきます。
小型犬でも青年期を脱しかけた年代が一番若い罹患となるので、ともすると症状は年齢故の老いととられる場合もあり治療が遅れがちになるのは否めません。
治療しなければ症状は進行し死への道が早まりますが、治療したとしても完全に病気を治せるわけではないのです。
腫瘍が肥大するのが早いと視力障害や意識障害なども
クッシング症候群を起こすのが一番多い脳下垂体の腫瘍の場合、腫瘍が肥大するのが早いと脳が圧迫されて視力障害や意識障害などの神経症状がでる場合があります。
内服薬はホルモンの合成を抑えはしても止められないので、治療の有無にかかわらず起こる可能性があるのです。
腫瘍を小さくするための放射線治療ができる施設のある動物病院は少なく、外科的治療で取り除くのは難しくてやはりできる施設のある動物病院や医師は少ないのが現状です。
副腎にある腫瘍ならば、外科的治療で取り除ければ予後は良い傾向がありますが、腫瘍が悪性で転移していたりしたら突然死の可能性もありますし、また内服治療を行うならば脳下垂体の腫瘍よりも薬の調節を慎重にせねばなりません。
クッシング症候群に罹患してからの生存期間
あまり獣医師が告げないことに、クッシング症候群に罹患してからの生存期間があります。
犬種や大きさ年齢に体質と病態などに個々に差があるのではっきりしたことは言えないのですが、脳下垂体の腫瘍が原因のクッシング症候群の場合、どの治療をしても平均生存期間は30ヶ月という獣医師もいます。
それが一番解りやすくはっきりした意見です。
他には下垂体の腫瘍の場合の生存率として、腫瘍が小さく服薬治療が効果を示していれば1年生存率は80%、2年生存率は70%、3年生は存率60%と、期間でなく率として表したものもありました。
クッシング症候群の治療にかかる費用
率直に言って愛犬がクッシング症候群に罹患して、治療してあげたいと思っても無い袖は振れない場合があります。
クッシング症候群の治療には高い費用が生じるからです。
内服薬1回分が小型犬で300~600円。
これは病気の進行状況と体の大きさなどによりますが、大型犬になると3倍にもなるのです。
投薬が一日2回として小型犬で600~1200円
一ヶ月で18000~36000円、大型犬で54000円~
ということになります。
クッシング症候群は診断するために特殊な検査が必要。
一般の検査の上にこの費用がおおよそ10000円
腫瘍の肥大を確認するためにソナーや、脳ならCTなどの検査が必要になってきて、これらの検査は一度ではなく、体内のコルチゾール量や腫瘍の大きさを確認するために折々に必要とされてきます。
手術費用と入院費用おおよそ30万~60万
放射線治療ができる動物病院なら放射線で腫瘍を小さくしてその後は服薬ということになります。
これは人間の例を見てもわかる通り複数回受けることになり、効果を見つつ追加することになるのでしょうが、おおよそ1回が10万~ということです。
合併症に罹っている場合は、これらの費用にプラスして合併症の治療費が必要になります。
注意していただきたいのは、これらは受診する動物病院で変動しますから、どの治療も相場はそれ位かなというところを示しただけです。
ペット保険に加入しているなら負担は少なくなりますが、加入していないなら全くの実費を払わねばなりません。
クッシング症候群のまとめ
出典元:アメブロ
犬がクッシング症候群に罹患していても、そう診断されるまでは時間が掛かります。
それは必ず見られるといわれる多飲多尿が他の多くの病気でも見られることと、犬が高齢になってきてから発症するので、初期症状が老いと勘違いされることが多いからです。
お腹が大きくなったり脱毛が始まってちょっと違うな、と飼い主が気付いたときはもう中期に入っているといいます。
間違えないでほしいのは、治療をするなといっているのではありません。
ただ、完治しない病気の愛犬を世話していくとき、治療の方法を考えるにしても犬の年齢や病状、飼い主の負担を考える必要があると指摘しているのです。
飼い主にクッシング症候群の将来的な病気経過を説明せずに治療だけ続けさせる獣医師もいるかと思われます。
完治しない、愛犬が死ぬまで付き合わねばならない病気だからこそ、きちんとした知識を飼い主も持って、愛犬のためにどの選択が一番いいのか考えたいものです。