犬の大好物な食べ物は?と聞かれたら、ほとんどの人が「肉」と思い浮かべるのではないだろうか。
みなさんのご家庭でも、「お肉」「○○肉」など肉に関連するキーワードを口にするだけで、犬がもう大騒ぎ…なんてこともあるだろう。
肉はスタミナをつけるにはもってこいの食材。調理自体も焼いたり茹でたりするだけという手軽さも嬉しいポイントだ。
しかし、肉とひとくちで言っても色々な種類の肉がある。身近なものでいえば鶏・牛・豚などがそれにあたるが、他にも羊・馬・猪・鹿・鴨など食べる機会は少ないものの、その種類は実に様々。
もちろん、これらの肉はしっかり加熱すれば犬も食べることは可能だ。では、具体的に何肉にはどんな特徴や栄養があるのか?ここでは、鶏・豚・牛・馬・猪・鹿・羊・鴨、それぞれの特徴や栄養などをご紹介しよう。
【獣医師監修】班目美紀
鶏肉
鶏肉の栄養素の中でも、特に注目したいのがタンパク質である。タンパク質は犬の身体をつくるうえで1番多く必要な栄養素と言われており、なんと人間の4倍以上を必要とするという。
タンパク質は、体内バランス、皮膚、毛なみ、免疫組織など、犬の健康を維持するうえで重要な成分。不足すれば体の全てに影響が出て、病気を防ぐ免疫抗体も減り病気を引き起こしやすくなると言われている。鶏肉でぜひしっかりとタンパク質を摂取しておきたい。
他にも、毛並みや毛艶の向上に効果のあるコラーゲンもたっぷりと含まれているのが特徴だ。
また、鶏肉は部位によっても特徴が異なる。スーパーなどで購入する際は、どの部位にどんな栄養があるのか知っておくのもいいだろう。
主に店頭でよく目にする部位といえば、もも肉、胸肉、ささみ、手羽先などあるが、それぞれの特徴や栄養は以下の通り。
もも肉
どんな料理でもジューシーに仕上がる鶏もも肉。鶏脚の「もも」部分なだけに筋肉質ではあるが旨味が強い。柔らかい食感をキープするためにも、あらかじめ筋切りしておくとよい。
もも肉には、細胞の老化を防いで動脈硬化を予防する「セレン」と呼ばれるミネラルが含まれているのが特徴。
胸肉
鶏の胸部分の肉。もも肉に比べあっさりした味わいは、脂肪が少なめでタンパク質が多く、柔らかい肉質が特徴。
また、胸肉についている「皮の部分」を捨てる方も多いだろうが、関節の動きをスムーズにしてくれる、グルコサミンやコンドロイチンが含まれている。
ただ、油脂の多い皮は高脂肪なので与え過ぎには注意を。オーブンでカリカリになるまで焼くと、余分な油も少しはカットできるので、与える場合は試してみてほしい。
ささみ
牛や豚でいうヒレの部分。ささみは、鶏肉の部位の中でも最もタンパク質が多く、おまけに低カロリーな部位。
肉質も柔らかく、手作り食やトッピング、おやつなど、いろいろなアレジレシピが楽しめる。
ささみは、そのまま茹でると縮んでしまうため、白い筋を取り除いてから茹でるのが一般的だが、白い筋はコラーゲン。せっかくの栄養を余すところなく摂取するなら、筋取りしないまま茹でるのがおススメだ!
手羽先
鶏の翼の部分。鶏肉の中では脂肪分が多い部位とされるが、関節維持をサポートするコラーゲンが豊富に含まれている。とはいえ、脂肪分が多いため与え過ぎには注意しなくてはいけない。
また、骨が細くて小さい部分もあるので、犬が丸飲みしないサイズにハサミでカットするか、骨を取り除いてから与えるようにしよう。特に、消化器官の小さい犬ほど細心の注意が必要である。
豚肉
ご家庭の食卓にも頻繁に登場するであろう「豚肉」。
人によっては「ロース」「ヒレ」など好みの部位もあるだろう。
豚肉を知らない人はいないと思うが、豚カツや焼き肉などの定番料理をはじめ、ハムやソーセージなどの加工品も人気な食材だ。
栄養面でも豚肉にはビタミンB1が非常に多く含まれており、牛肉や鶏肉に比べその量を大きく上回るのが特徴である。
しかし、ビタミンB1は糖質をエネルギーに変える重要なビタミンではあるが、体内に蓄積されないといった側面もあるようだ。また、ビタミンB1は野菜などでも摂取できるが、水に溶けやすいので水にさらすと多くの栄養が逃げてしまう。
その点では、洗わず調理できる豚肉はほとんどビタミンB1を逃がさずに摂取できるだろう。
他にも、タンパク質、ビタミンB2、B6、ナイアシンなどのB群や、鉄分、カリウム、リンなどのミネラルも含まれている。
豚肉は身近な存在ゆえに、その豊富な栄養があることを見落としてしまいがちだが、意外にも優秀な食材であるのだ。
牛肉
牛肉は人間だけでなく犬にとっても健康的な食材のため、愛犬の食事にも活用している飼い主さんも多いことだろう。
とはいえ、牛肉は味が良いけどカロリーや脂質がちょっと心配…という方も多いのではないだろうか。
まずは気になる牛肉のカロリーを部位別で見てみよう。
※100gあたりのカロリー、《 》内は脂質の順。カルビ(バラ)、ヒレ以外は「皮下脂肪なし」のカロリーを参照。
- カルビ(バラ)・・・371kcal 《32.9g》
- サーロイン・・・238kcal 《16.5g》
- 肩ロース・・・237kcal 《17.1g》
- 牛肩・・・157kcal 《7.8g》
- 牛もも肉・・・149kcal 《6.7g》
- 牛ヒレ肉・・・133kcal 《4.8g》
一般的にスーパーなどで目にする機会の多いであろう部位を並べてみた。
こうして見ると、私たちが普段「美味しい」「甘みを感じる」と思って食べている部位は、意外にもカロリーや脂質が高いことが分かる。
一方の栄養面。やはり美味しいだけあって栄養も豊富に含まれているようだ。
犬の身体を作るうえでの基本的な栄養であるタンパク質をはじめ、赤血球の生産に関わるビタミンB12、貧血予防や改善に効果的な鉄分、細胞の再生やストレスの軽減・免疫力の向上に効果があるとされる亜鉛などが豊富に含まれている。
牛肉は栄養価が高いが、カロリーや脂質も高い。部位によってカロリー・脂質量が変わってくるので、愛犬のコンディションを見て最適な部位をチョイスするといいだろう。
⇒ 「牛肉」の部位別での栄養や与え方、注意点はこちらをCheck!
馬肉
みなさんは、「馬肉」を食べたことはあるだろうか。
馬肉とは、その名の通り馬(ウマ)の肉のこと。馬肉は、ほかの牛・豚・鶏と比較しても栄養価が高く、滋養強壮、薬膳料理ともされ、日本でも古くから食べられている食肉のひとつだ。
馬肉が滋養強壮に良い、と言われる理由には「グリコーゲン」という多糖類の一種が含まれていることにある。
体内にあるグリコーゲンは筋肉に貯蔵され、運動するのに重要な役割を担う。体内で素早く吸収され、即パワーを発揮してくれるのでスタミナ持続の効果も期待できるようだ。滋養強壮、疲労回復にも良いと言われている。
他にも、アミノ酸の一種である「カルニチン」も馬肉には含まれているのも特徴。
カルニチンの健康的効果としては、体内の脂肪を燃焼させる働きに一役買ってくれることにある。
さらに、カルニチンは体内で代謝されると新たに「アセチルカル二チン」という物質に合成される。これには脳細胞を再生する働きがあるとされている。つまり、カルニチンは脳の活性化にもつながる嬉しい成分でもあるのだ。
鹿肉
食べるために野生の動物を狩る「ジビエ」。
日本では主に、「エゾジカ(蝦夷鹿)」や「二ホンジカ(本州鹿)」が食べられているが、ジビエは一般的なスーパーなどでは扱われてはいない。
日本ではあまり馴染みのない鹿肉だが、自然環境で育った野生動物の体は、食用の肉と比べて栄養価が高く、カロリーが低いため、ヘルシーな食材として注目を集めている。
鹿肉は、牛・豚・鶏と比べてもカロリーや脂質は少なく、ビタミンB群やカリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄分などの栄養価は高い。
ただし、野生の動物には感染症や食中毒のリスクも高くなることは知っておこう。いかに栄養満点で犬に与えたい食材であっても、与え方を間違えてしまえば大きなデメリットになってしまう可能性がある。
鹿肉の与え方や注意点については別の記事で詳しく説明しているので、そちらの記事をぜひ参考にしてほしい。
猪肉
皆さんは、イノシシを家畜化したものが、ブタという話を聞いたことはあるだろうか。
実はこれ本当の話。ブタは約1万年も昔から人間がイノシシを家畜化したのが始まりだと言われている。つまり、イノシシはブタの原種であり同じ種である。
イノシシよりもたくさんの肉が採れるようにと、太った胴長の体型に改良されたのが現在のブタなのだ。
イノシシの肉、いわば猪肉(いのししにく・ししにく・ちょにく)は日本のジビエの中でも親しみが深い。
栄養面では、コレステロールを減らす働きのある「不飽和脂肪」が豊富に含まれているのが特徴だ。
人や犬にとっても気になる数値であるコレステロール。このコレステロール自体は人間や犬にとっても、体を維持するのに必要なものだが、過剰となると問題になってくる。
ところが、この不飽和脂肪酸はコレステロールを減らす働きに優れている。
主に、イワシやサバ、アジなどの青魚に多く含まれている成分だが、猪肉にも豊富に含まれているのが特徴。コレステロール過剰を気にするなら、肉類の中でも猪肉をチョイスするというのもアリだろう。
猪肉には他にも、タンパク質、ビタミンB1、B2、B12、カリウム、鉄分、マグネシウムなども含まれている。
羊肉
生後1ヶ月未満の仔羊の肉を「ラム」、2歳以上の成羊の肉を「マトン」と呼び、明確に区別されている羊肉。
ラム肉は独特の臭みがあって苦手だ…という人も多いかもしれないが、実は「ヘルシーミート」として高い評価を得ている。
羊肉がヘルシーミートと呼ばれている理由は、必須アミノ酸・鉄分・ビタミン類が豊富なうえに低カロリーが特徴であることにある。
他の肉と比べてみても栄養価に優れ、特にビタミンB1、B2、ビタミンEの含有量が豊富。
高タンパクで必須アミノ酸や鉄分などのミネラル類も多く含まれているため、とてもバランスが取れた食材といえるだろう。
また、羊肉の脂は吸収されにくい点もヘルシーさの理由の一つ。
実は肉の脂肪というものには、体内に入って溶け始める温度、つまり「融点」というものがある。
ラム肉の脂の融点は44℃。(ちなみに、牛肉が40℃、鶏肉30℃、豚肉は28℃)
犬の平均体温は、おおむね37℃台後半から38℃台が平熱なので、ラム肉の融点44℃より6~7℃も低くなる。
つまり、体内に入った脂はなかなか溶けず、腸で吸収されることなく体外に排出される、というわけだ。
鴨肉
普段から使っている鶏肉とは違い、高級感のあるイメージがある「鴨肉」。
鶏肉よりも脂質が多いが、その脂にはコレステロールを減らす働きのある「不飽和脂肪」を多く含んでいるのが特徴だ。
ほかにも、赤身部分にはビタミンB群や鉄分といった栄養も豊富に含まれている。なかでもビタミンB2は顕著。エネルギー代謝に関与するこの成分は、皮膚や粘膜、爪、被毛などの健康を保つ効果がある。
ビタミンB2の他にも、ビタミンB1、B6、B12、ナイアシン(B3)、などのビタミンB群も含まれている。
ビタミンB群は基本的には炭水化物、脂肪、タンパク質の代謝に必要な成分である。つまり、人や犬にとっても生きるためのエネルギーを作るには欠かせない栄養素でもあるのだ。
B群はどれかひとつだけでは効果を発揮しにくい成分。互いに助け合ってその機能を発揮するので、一つだけの大量摂取よりもバランスよく摂取することを心がけたい。
ただし、鴨肉は「鴨肉」と「合鴨肉」とではカロリーが違うので注意を。
日本で流通する鴨肉は、ほとんどがアイガモと呼ばれるアヒル×野生の鴨(マガモ)の交雑種、つまり合鴨肉と呼ばれるものだ。
この鴨肉と合鴨肉、2種類のカロリーを100g当たりで見てみると、野生の鴨(マガモ)は128kcalであるのに対し、合鴨肉は333kcalと非常に高い。
ついでに脂質も見てみると、野生の鴨で3gに対し、合鴨肉は29gとその差は歴然。
鴨肉は低カロリーでヘルシーな食材…という言葉を聞くこともあるが、こうした違いがあることは覚えておこう。
確かに野生の鴨は低カロリーだが、実は合鴨肉だった場合、思いのほかカロリーが高いので注意が必要だ。
さいごに
肉を焼くとき、他の食材よりも先に炒めるのというのが基本であるが、最初から一緒に炒めないのはなぜか?
この理由のひとつは、肉をしっかり焼くためである。肉は生鮮食品であり、生肉には細菌の繁殖の元になる水分や血が付いている。
きちんと火を通すことは安心・安全で食べることができ、そしてうまさのためでもあるのだ。
ぜひ今回の情報を参考に、愛犬と飼い主さんの好みの肉を探してみてほしい。
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