愛犬が下痢をしてお腹の調子が悪いみたい、痛みがあるのか苦しそうにしてる、そんなときに限って近所の獣医師は休診してる、なんてことありますよね。
人間用の薬を安易に服用させてはいけないことは十分承知してるけど、ただ見てるのも辛い。
ついつい薬箱を探すと正露丸が…
ロングセラーのこの薬、親の代から薬箱にある方もいらっしゃることでしょう。
でも、待って下さい。
こんなときだからこそ愛犬のためにも冷静になって、正露丸を犬に与えて良いのか考えてみましょう。
【専門家監修】応武 梓
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正露丸の今昔
出典元:PR TIMES
犬に与えていいか判断に迷う正露丸ですが、臭いが敬遠され他にも多くの胃腸薬が発売されたこともあって、ご存知ない方もおられるのではないでしょうか?
ここでは正露丸について軽く紹介していきます。
正露丸って?
正露丸は木(もく)クレオソートを主成分とする胃腸薬です。
木クレオソートとはブナなどの樹木で木炭を作る際に水蒸気と共に留出する油層(木タール)をさらに蒸留した、燻製のような臭いの油状の液体です。製法・成分の違う石炭由来のクレオソート油と別物です。
ドイツ人化学者がヨーロッパブナの木から木クレオソートを蒸留したことが起源で、化膿傷の治療に用いられていました。その後、殺菌効果を期待して胃腸疾患に内服されるようになったのです。
発売当初の正露丸
日清戦争で不衛生な水源によって兵士達は腹痛や下痢に悩まされ、戦線を離脱する兵士が多く出ました。
その為陸軍軍医学校の研究によって生み出されたのが「クレオソート丸」で、正露丸の元になっています。
それ以前に「忠勇征露丸」という商品名で木クレオソート丸剤が発売されていたことから、日露戦争に出征する兵士に支給するのに便宜上「征露丸」と名付けたのです。
戦後、戦勝ブームもあり「露西亜(ロシア)を倒した万能薬」として製造発売され、国民薬として普及していきました。
正露丸といえばラッパのマークの大幸薬品が製造したものが有名ですが、当時は多くの製薬会社が販売していました。
現在の正露丸
ラッパを鳴らすCMとパッケージにも使用されたラッパのマークが印象的で、現在でも数社が正露丸を販売しているのですが、マークこそ違えパッケージは似たものが使われています。
当初は特異な臭気が災いして兵士達にもなかなか指示通りに服用してもらえなかった正露丸は、やはりそれがネックでお洒落になった戦後の人々に敬遠されがちでした。
製薬会社でもそれに対応し、臭いのしない糖衣錠が発売されています。
正露丸の成分と効果
出典元:PR TIMES
では犬に服用させる前に正露丸の成分や効果を探ります。
主成分:日局木(もく)クレオソート
どの製薬会社の製品でも主成分となるのが日局木クレオソートです。
石油由来の工業用クレオソート油と混同され、一時は強い攻撃を受けた日局木クレオソートは、ちょっと深追いが難しい成分でした。
大幸薬品が薬効として記載している「大腸の過剰なぜん動運動の正常化、腸管内の水分量の調整、腸内静菌」の、裏付けを取ろうと探してみたのですが、私たちがネットで簡単に探せる範囲の比較的わかりやすいものでは日本家庭薬教会の正露丸のページか、KEGG DRUGデータベースしかありませんでした。
KEGG DRUGとは「日本、米国、欧州の医薬品情報を化学構造と成分の観点から一元的に集約したデータベース」とのことです。
そこでは
医療用医薬品として外皮用殺菌消毒剤と呼吸器系の去痰薬
一般医薬品として消化器官用薬の止瀉薬(下痢止め)と歯科口腔用薬の歯痛・歯槽膿漏薬
として分類されているだけでした。
日本家庭薬教会のページでは「最近解明が進んできた」と記載されていますが、大幸薬品のページ以外では薬効に対する裏付けが取れないのが現状です。
主成分としてこれだけを見るとちょっと不安なような気がしますが、それは後々の研究成果を待ってもよいのではないでしょうか。
抗生物質の登場までは木クレオソートは抗菌剤として欧米を中心に使われ、赤痢や結核などの感染症の特効薬として全世界に広まっていました。
読み解くのが難しいのですが、論文や医師の書いたネット記事などでは大幸薬品の記載する薬効が指示されているようでもありますから、身近で信頼できる記事がそのうち掲載されるのではないでしょうか。
正露丸の効き目
各製造会社に共通する主成分の日局木クレオソートの薬効に不可解な部分が残るとしても、正露丸が胃腸薬として優れていることは事実です。
特異な臭気が避けられる原因となっていたとしても、ロングセラー商品となっていることや、アジア諸国からの観光客にお土産として珍重されているのは確かな効き目がある証拠です。
過信や過剰服用が危ないのは他の薬も同じです。
軟便、下痢、食あたり、水あたり、はき下し、くだり腹、消化不良による下痢、むし歯痛に効くとされています。
ロキソニンなどの痛み止めが一般的でない頃、虫歯が痛むと歯に詰めた高齢者の方も多いのではないでしょうか?
犬に正露丸を服用させて大丈夫?
出典元:公募ガイド
では肝心の、犬に正露丸を服用させる可否はどうでしょう。
犬に正露丸を飲ませてはいけない理由
病気の犬が獣医師を受診すると薬として人間用薬を処方されることがあります。
それは薬によって人と犬の成分が同じだからで、だからといって人間の薬を犬に与えて良いという訳ではありません。
正露丸の主成分である木クレオソートは犬が誤って飲むと中毒を起こす成分として知られています。
木クレオソートは22化合物からなり、その内19化合物がフェノール類の化合物なのです。
フェノール、クレゾール、グアヤコール、メチルグアヤコール、エチルグアヤコールはフェノール類に属し、これだけで80%を占めています。
犬はフェノール類をうまく代謝できないので、完全に代謝するまでは体内に留まることになり、中毒になってしまうのです。
他にも胃壁を荒らすなど、消化器に強いダメージを与えてしまいます。
犬が正露丸を摂取してしまった場合の処置法
正露丸は臭いがきついので自分から食べに行く犬はいないと思いますが、糖衣錠などになると表面が甘いため誤飲する可能性があります。
摂取した量が少ない場合は、ほとんどが丸一日の絶食で回復するようですが、それでも調子が良くない場合は獣医師を受診して下さい。
多いと中毒を起こしてしまいますから、摂取した量や時間をメモしておいて獣医師に伝えましょう。
また正露丸にもいくつかの種類がありますので、獣医師を受診する際には犬が摂取した正露丸を持参することをおすすめします。
犬が正露丸を摂取した場合考えられる症状
前述したように正露丸の主成分である、木クレオソートによって犬の胃壁が荒らされます。そして下痢や軟便、嘔吐などの消化器症状が起こってしまうことがあります。
他には中毒になることによって損なわれることが考えられるのは腎機能と肝機能です。
腎臓は老廃物や毒素を尿として排出する働きがあるのですが、犬が突然ぐったりするのは腎機能障害が起こっているからかもしれません。
肝臓は「沈黙の臓器」とも呼ばれていて、栄養素の分解や合成・貯蔵などの働きがあり、体の中に入ってきた毒素を分解して無毒化する役割を持っています。
中毒によって肝臓が損なわれると、食欲が減退し、元気が無くぐったりとして、黒い下痢、嘔吐、黄疸(目の白目の部分や皮膚が黄色くなる)などの症状が起こります。
犬に正露丸は危険です
出典元:宣伝会議
見てきたように犬に正露丸を服用させてはいけません。絶対に止めて下さい。
ロングセラー商品で自分でもよく効いた覚えがあるからこそ信じて与えてしまうのでしょうが、人間に有用でも犬には危険な場合があるのです。
人でも犬でも服用できる胃薬
犬のお腹の調子が悪いときに正露丸は絶対に与えてはいけませんが、かといって愛犬が苦しんでいるのに何もせずにいることは難しいですね。
そんなときのために人間でも犬でも服用できる整腸剤を紹介しておきます。
乳酸菌を主成分とする整腸剤「ビオフェルミン」をご存知の方も多いと思います。
ビフィズス菌は主に大腸で、その他の乳酸菌は主に小腸で働き腸内環境を整えてくれるのです。
ただ、あくまでも整腸剤なので他の病気が隠れていた場合は効かないことがありますので、2、3日様子を見て症状の改善が見られなければ獣医師を受診することをおすすめします。
錠剤だけでなく細粒もありますので、一つ買っておいてもいいかもしれません。
ビオフェルミンは犬猫用として「ビオイムバスター」が市販されています。
犬猫用としては他にも市販薬が出回ってきていますので、前もってペットショップなどで確認しておくのもいよかもしれません。