犬が僧帽弁閉鎖不全症になった!?薬で治す?それとも手術?

僧帽弁閉鎖不全症 犬
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飼われている犬の死因で心臓病は第2位で、その7割がこの疾患です。

犬の僧帽弁閉鎖不全症は手術で治すのが根本的な治療なのですが、このオペを施術できる施設は限られています。

そのため、ほとんどの場合は投薬による内科的な治療を受けることになります。

ただし、薬による治療は進行を遅らせる効果しかないので、完治させるのはとても難しいとされています。

しかも薬を一生飲ませ続けなければならず、飼い主さんの経済的負担も大変なものがあります。

もし愛犬が僧帽弁閉鎖不全症になったら、飼い主さんは色々な意味で覚悟を決めることになるのです。

 

心臓の僧帽弁とは?

人もワンちゃんも心臓は左右の心房と心室、合計4つの部屋に分かれています。

心臓は、全身の組織に酸素を届けて二酸化炭素をもらって帰ってきた血液を肺に送り、ガス交換で酸素を含んだ血液を再び全身に送ることを繰り返しています。

心臓を出て、また戻ってくるまでの順路は以下の通りです。

  1. 大静脈
  2. 右心房
  3. 三尖弁
  4. 右心室
  5. 肺動脈弁
  6. 肺動脈
  7. 肺静脈
  8. 左心房
  9. 僧帽弁
  10. 左心室
  11. 大動脈弁
  12. 大動脈

この流れの中で、心臓が収縮し、拡張する時に中の血液が逆流するのを防ぐ働きをしているのが4つの弁で、その中の一つが僧帽弁です。

この弁が完全に閉じなくなってしまうと、全身に血を送りだそうとする左心室の中に溜まった血液が左心房に逆流してしまいます。

そのために全身へ酸素を含んだ血液が送られにくくなるばかりでなく、肺への負担が大きくなって肺水腫を起こすことが知られています。

 

僧帽弁が閉じなくなるとどんな症状が現れるの?

初期のころは目に見える症状はほとんど現れません。

心臓は送り出す血液の量が足りないと感じると、鼓動を早くして送り出す回数を増やして補おうとします。

そのために、僧帽弁から逆流する血液が増えると、回数で稼ごうと必死に働き続けるのです。

やがて、逆流して全身に送られない血液が心臓に溜まるようになるため大きさが膨らみ出します。

この段階で確認できるのはこれらの症状です。

  • 獣医さんの診察時に聴診器で、血が逆流している心雑音が聴こえる
  • 大きくなった心臓が気管や気管支を刺激するため、むせるような咳が出る
  • 運動すると苦しそうにして嫌がるようになる
  • 激しい運動をしたり、興奮したりすると倒れる

さらに進行すると、溜まった血液は逆流して肺に流れ込むようになってしまい、肺の毛細血管に溜まるようにもなります。

そして、水分が血管から漏れるようになり肺に溜まるのです。

これが肺水腫と呼ばれる疾患で、肺の中が水浸しになって呼吸ができなくなり、チアノーゼなどを起こして、心不全の状態となって命を落とすことになります。

 

かかりやすい種類とは?

かかりやすいと言われるのは以下の小さいワンちゃんたちです。

  • キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル
  • マルチーズ
  • チワワ
  • シー・ズー
  • ポメラニアン
  • トイ・プードル
  • ビーグル
  • ダックスフンド
  • コッカー・スパニエル
  • コーギー
  • ミニチュア・シュナイザー

 

僧帽弁閉鎖不全症のガイドラインとは?

アメリカ獣医内科学会(ACVIM)のステージ分類が治療の指針として使われています。

 

ステージA

  • 心雑音なし(心臓にとくだんの異常が見られない)
  • キャバリアなど好発犬種である

 

ステージB1

  • 心不全の症状は出ていない
  • 心雑音があるものの、血行にはとくに影響は出ていない
  • 心臓の肥大は見られない

 

ステージB2

  • 心不全の症状は出ていない
  • 血行が悪くなりかけている
  • レントゲンや超音波検査で心臓の肥大が見られる

 

ステージC

  • 肺水腫などで呼吸困難が現れていて、心不全になりかけている
  • すでに心不全の治療を始めている
  • もはや治療をしてもステージBに戻れない

 

ステージD

  • 標準的治療にはもう反応しないほど進行している
  • 肺水腫を繰り返していて、制御することができない

なお、この分類ではステージB2からDで、内服薬での治療が必要とされています。

 

内科的治療で使われる薬とは?

この治療はあくまで対症療法で、根治を目指すものではなく、ワンちゃんの心臓にかかる負荷を軽減することが目的で、以下の3つがポイントとなります。

  1. 血圧を下げる(血管を拡げる、血液量を減らす)
  2. ポンプとしての機能が低下しても血液の循環量を維持する
  3. 肺水腫が起こるリスクを低下させる

軽いうちであればさらに進行することを防げる可能性がありますが、その利用には限界があるのと、飲み続けなければならない薬剤費が飼い主さんへの負担となります。

治療に使われる薬剤は主に以下のものが処方されます(主な薬剤の商品名を併記しておきます)。

 

ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬:エナラプリル、ベナゼプリルほか)

ステージB2と診断されると最初に処方されることが多い薬で、血管をおだやかに拡張させて血圧を下げる効果があります。

これらの薬は心臓を頑張らせているホルモンを減らすなどして、心臓を保護する作用も持っています。

  • エナカルド
  • フォルテコール
  • エースワーカー
  • アピナック
  • バソトップ

 

強心薬(ピモペンダン)

心筋に働いて収縮する力を強める薬で、ACE阻害薬よりも強い血管拡張作用がります。

ACE阻害薬を投薬していても心臓の働きが悪化した場合に処方されます。

最近では心臓が拡大する前の初期の段階から投与すると、心臓の働きを改善するとの報告があります。

  • ベトメディン
  • ピモベハート
  • アカルディカプセル

 

血管拡張薬(硝酸イソソルビド)

心臓に血液を供給する冠動脈を拡げる作用があります。

人間では狭心症や心筋梗塞に使われています。

  • ニトロール

 

即効性血管拡張薬(ニトログリセリン)

人間では心筋梗塞の薬として舌下錠の形で処方され、即効性があります。

苦味が強いためワンちゃんには包皮内や膣内に投与されます。

  • ニトロペン

 

カルシウム拮抗薬(アムロジピンほか)

血管壁の細胞でカルシウム濃度が上昇すると、細胞膜が収縮することで血管が細くなり血圧が上がります。

そこでそのカルシウムに対して拮抗的に働いて細胞に取り込まれることを防いで血管が収縮しないようにして血圧を下げる効果があります。

  • コニール
  • アムロジピン
  • ノルバスク

 

利尿薬(フロセミド、トラセミド、スピロノラクトンほか)

腎臓での水分の再吸収を低下させて尿として排出する作用があります。

血液中の水分が排出されることで血液量が減り、送りだす心臓の負担が軽減されることになります。

さらには、肺に溜まる水も減らすことになるので、肺水腫を防ぐことにも繋がります。

ちなみにトラセミドはフロセミドの数十倍の利尿作用があります。

  • ラシックス
  • ルプラック
  • アルダクトン

 

ジギタリス製剤(ジギタリス)

昔から処方されている強心薬で、心臓が収縮する力を強めて心拍数を低下させます。

利尿薬と併用する際には副作用に気をつけなければなりません。

  • ジゴキシン

 

β遮断薬(カルベジロール、アテノロールほか)

不整脈を治す薬のひとつです。

交感神経を抑制するなど自律神経働きかけるものや、心筋の細胞が興奮して収縮するのをコントトールするものなどがあります。

  • アーチスト
  • テノーミン
  • ミロベクト

これらの薬剤が、ワンちゃんの状態やステージに合わせて使い分けられていて、多くの種類の薬剤が併用されます。

 

外科的治療での手術とは?

ワンちゃんの僧帽弁閉鎖不全症を根治するためには、僧帽弁の機能を復活させる手術が必要となります。

しかしながら、大がかりな設備が必要となるために、施術できる施設は限られているのが現状です。

 

手術が適応となるワンちゃん

  • 年齢:制限はなく、高齢でも体力があり全身麻酔をかけることができれば対象となります
  • 体重:理想は2kg以上で、体重が少ないと血液量も少ないため人工心肺を装置が使えません
  • ステージ:B2以上が対象ですが、B1でも施術されることがあります

 

手術の手順

人間と同じく人工心肺を使用して行われます。

  1. 全身麻酔下をかける
  2. 人工心肺を繋ぎ、血液の体外循環を開始する
  3. 胸を開け、心臓の僧帽弁に対し手術を行う
  4. 体外循環から離脱して人工心肺装置を外す
  5. 胸の創部を縫合する
  6. 人工呼吸器から離脱する
  7. ICUに運び管理する

オペに要する時間は6~7時間と長い手術となりますが、心臓を停止させるのは1時間ほどです。

 

術式の種類

次の2つの術式があります。

  • 腱索再建術
  • 弁輪縫縮術

またこれらの2つを組み合わせた僧帽弁形成術も施術されます。

 

術前と術後の管理

オペ前日に入院して準備をした上で、当日はICUなどで24時間管理されます。

翌日からは回復の度合いを見ながら、7日から14日の入院で退院が可能になります。

その間に10日以降あたりで抜糸を行います。

 

費用について

施設や術式などの違いで大きな差がありますが、おおよその金額としては150万円ほど言われています。

かなりの高額となるため、最近ではインターネット上で支援を募るクラウドファンディングで、募金プロジェクトを展開している飼い主さんをよく見かけます。

 

退院後の検診

定期的に通って検診を受けることになります。

手術から1カ月後、2カ月後、3カ月後、6カ月後、1年後というのが一般的なスケジュールです。

検診の際の費用は検査の都合でやや高額となり、3~5万円ほどかかります。

 

犬が僧帽弁閉鎖不全症になった!?薬で治す?それとも手術?まとめ

愛犬が心臓病にかかっていることがわかった時の飼い主さんのショックは大変なものと思います。

心臓の器質的な機能障害が元である場合は薬物では根治することができず、手術が必要となります。

犬の僧帽弁閉鎖不全症も手術を受けなければ根治を望めない心臓病です。

しかし、軽症のうちならば薬剤によって進行をくい止めることができて、手術をすることなくおだやかに一生を終えることも可能です。

愛犬の僧帽弁閉鎖不全症にできるだけ早く気づくことができるように、いつまでも元気でいられるように、毎日愛犬の様子をチェックするようにしてあげてくださいね。

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