疲労回復や滋養強壮に抜群の効果がある「にんにく」。
犬にとっても有用な効果があるかと思いきや、それ以前に犬に与えることに対して賛成派、反対派の意見があるようだ。
意見が分かれる大きな理由は、にんにくが「タマネギ」と同じ仲間であるから。つまり、犬がにんにくを食べるとタマネギ中毒と同様の症状を引き起こす可能性があるからなのだ。
これによって、賛成派は「摂取量を知って与える分にはOK」、一方の反対派は「少しでもリスクがあるなら与えない」と意見が分かれるというわけだ。
今回は、このまっぷたつに分かれた意見に対して、最終的にどうなのかをまとめてみた。
【獣医師監修】班目美紀
そもそもタマネギ中毒って何?
タマネギ中毒とは、タマネギを含めたネギ属、ニラやにんにくなどの摂取を原因とする、犬や猫、牛などの食中毒のことである。ネギ属は他にも、長ネギはもちろん、ラッキョウ、あさつき、わけぎなども含まれる。
これらネギ属には「有機チオ硫酸化合物」という犬にとっては中毒物質が含まれている。犬はこの物質を消化する酵素を持たないため、ネギ属は食べてはいけない食材とされている。
また、ネギ類といえば、特有の「匂い」があると思うが、この匂いの元となる物質(アリルプロピルジスルフィド)には、有機チオ硫酸化合物の吸収力を高め中毒症状を引き起こすと言われている。
これらの中毒物質が犬の体内に入ると、赤血球に影響して溶血性貧血(赤血球が破壊されることによって起こる貧血)を起こすという。
ちなみに、この物質は加熱しても毒性は消えないとされている。
中毒を起こす摂取量は?
アメリカのNCBI(国立生物工学情報センター)によると、どうやら体重1㎏あたり15g~30gのタマネギを摂取すると、臨床的に重要な血液変化が見られるという。
例えば、小さなタマネギ1個あたり約150gあるので、体重10㎏の犬が1~2個食べると危ないというわけ。
それほどの量を犬が食べることは考えられないが、中毒を起こす摂取量で言えばこのようになる。
では、にんにくの場合はどうなのだろう?
同じくNCBIによると、にんにくは、タマネギよりも毒性が少なく、安全であると考えられているようだ。
下記は健康な犬を対象に、にんにくの抽出物を胃内投与して溶血性貧血を起こしたかどうかの調査結果である。8匹の成犬を対象に行った調査なので信憑性は高いのではないだろうか。
PROCEDURE:4 dogs were given 1.25 ml of garlic extract/kg of body weight (5 g of whole garlic/kg) intragastrically once a day for 7 days. The remaining 4 control dogs received water instead of garlic extract. Complete blood counts were performed, and methemoglobin and erythrocyte-reduced glutathione concentrations, percentage of erythrocytes with Heinz bodies, and percentage of eccentrocytes were determined before and for 30 days after administration of the first dose of garlic extract. Ultrastructural analysis of eccentrocytes was performed.
RESULTS:Compared with initial values, erythrocyte count, Hct, and hemoglobin concentration decreased to a minimum value on days 9 to 11 in dogs given garlic extract. Heinz body formation, an increase in erythrocyte-reduced glutathione concentration, and eccentrocytes were also detected in these dogs. However, no dog developed hemolytic anemia.
訳すとこのようになる。
手順:
4匹の犬に、1日1回7日間、1.25mlのニンニク抽出物/ kg体重(5gの全ニンニク/ kg)を胃内投与した。 残りの4匹の対照犬はニンニク抽出物の代わりに水を摂取した。 全血球算定を行い、メトヘモグロビンおよび赤血球減少グルタチオン濃度、ハインツ小体を伴う赤血球の割合、および偏心細胞の割合を、最初の投与量のニンニク抽出物の投与の前後に測定した。 偏心細胞の超微細構造分析を行った。
結果:
初期値と比較して、ニンニク抽出物を投与されたイヌでは、赤血球数、Hct、およびヘモグロビン濃度は9〜11日目に最小値まで減少した。 ハインツ体形成、赤血球減少グルタチオン濃度の増加、および偏心細胞もこれらのイヌで検出された。 しかし、溶血性貧血を発症した犬はいませんでした。
ちょっと意味が分かりにくいが、簡単に言えば「溶血性貧血の兆候は見られるものの発症はしなかった」ということが言いたいようだ。
これによると、「1.25mlのにんにく抽出物=5g」とあるが、にんにく5gは小さめの1かけの大きさ。体重1㎏あたりで5g換算となると、例えば5㎏の犬であれば25g(小5かけ)を1日1回、7日間与えても発症しなかったということになる。
結論
リスクがあるか、ないかで言ってしまうと、「ある」のは確かではあるが、その物質が入っているからといって「この食材は毒だ!危険だ!」という解釈・姿勢は間違いかもしれない。
中には「犬にいかなる量でもにんにくは有害」と思わされてしまうような残念な情報もあるが、ほんの少量食べたからといってもほとんどの場合は問題ないだろう。
問題があるとすれば、その辺に放置したにんにくや、人間用に調理されたにんにく料理を大量に食べた場合。反応は犬によって異なるだろうから、大量に食べてしまった場合には注意が必要だ。