皆さんは、イノシシを家畜化したものが、ブタという話を聞いたことはあるだろうか。
実はこれ本当の話。ブタは約1万年も昔から人間がイノシシを家畜化したのが始まりだと言われている。つまり、イノシシはブタの原種であり同じ種である。
イノシシよりもたくさんの肉が採れるようにと、太った胴長の体型に改良されたのが現在のブタなのだ。
イノシシの肉、いわば猪肉(いのししにく・ししにく・ちょにく)は日本のジビエの中でも親しみが深い。
聞いたことはあるけど、食べたことはない、そんな人も多いのではないだろうか。もちろん、豚の原種である猪肉を犬に与えてもOKなのだが、野生の鳥獣だからこそ注意しなければならないこともある。
今回は、猪肉と豚肉の違いや共通点、与える際のポイントについて学んでいこう。
【獣医師監修】班目美紀
猪肉と豚肉の違いや共通点
イノシシとブタ。両者は同じ種であるという共通点はあっても、まず育つ環境が違うところが大きい。
家畜されたブタは、餌や生育日数を飼育者がコントロールしているため、個体ごとの差があまりない。これは、精肉されたときに一定の味を保てるということになる。
一方のイノシシは、日々食べているものも違う。また、猟師が捕獲した時点でのイノシシの年齢も違うため、個体ごとの差が大きくなることもある。つまり、ブタのように一定の味ではないというわけだ。
食感
やはり同じ種だけあって味わいも似ている。
ただ、イノシシは野山を駆け巡って生活しただけあって、食感も硬めで筋肉質だ。家畜されたブタのように、太ることを目的としていないからこそ、このような食感になる。
また、猪肉は豚肉より濃厚な味わいが特徴だ。新鮮かつ適切な処理をされたものであれば、コクのある豚肉のような味わいを楽しむことができる。
よく、ジビエは「臭いが気になる」という人もいるが、これは狩猟後の下処理によるところが大きい。
いかにストレスなく、迅速に血抜きなどの処理が行われるかが重要。この処理がいかに適切に行われるかで臭みがぐっと減ると言われている。このため、猪肉を調達する際は信頼できる業者からの購入をおすすめする。
猪肉は栄養豊富で低カロリーな食材
猪肉はジビエの中でも栄養価は高い。中でもコレステロールを減らす働きのある不飽和脂肪が豊富に含まれているのが特徴だ。
また、猪肉のカロリーは低く、肉100g当たり268kcalほど。他の肉と比べてみても、100g当たり豚肉で291kcal、牛肉で411kcalとなっている。
やはり、野生で生きていくのに必要な分だけの脂肪を蓄えているからなのだろう。
不飽和脂肪酸
人や犬にとっても気になる数値がコレステロール。これ自体は人間や犬にとっても、体を維持するのに必要なものだが、過剰となると問題になってくる。
ところが、この不飽和脂肪酸はコレステロールを減らす働きに優れているとされている。
主に、イワシやサバ、アジなどの青魚に多く含まれている成分だが、猪肉にも豊富に含まれているのが特徴だ。コレステロール過剰を気にするなら、肉類の中でも猪肉をチョイスするというのもアリ。
タンパク質
タンパク質は犬の身体をつくるうえで1番多く必要な栄養素である。
動物の身体のおよそ20%がタンパク質などのアミノ酸からできており、体内バランス、皮膚、毛なみ、免疫組織など、犬の健康を維持するうえで大切な成分でもある。
そのうえ、動物性タンパク質は植物性タンパク質に比べ効率よく吸収されるのが特徴だ。
ドックフードのトッピングや手作り食などにも、ぜひ活用して摂取したい。
鉄分
猪肉の鉄分は、吸収性に優れたヘム鉄である。
鉄分は貧血予防、改善には効果的といわれている。鉄分は赤血球の中の「ヘモグロビン」を作るのには欠かせない材料になってくれるほか、赤血球が酸素を運ぶ手助けをしてくれる大切な役割をはたす。
ビタミンB12
猪肉には豚肉の4倍ものビタミンB12が含まれているのも嬉しいポイントだ。
ビタミンB12は補酵素として、タンパク質、炭水化物、脂質などの代謝を助ける働きがある。
また、造血ビタミンの一つであるビタミンB12は、赤血球の生産には欠かせない栄養素でもあるため、老化防止、貧血防止、タンパク質合成などに効果を発揮する成分ともいわれている。
上記以外にも、ビタミンB1、B2、カリウム、マグネシウムなども猪肉には含まれている。
猪肉を安全に与えるには
日本で食べられている猪肉の多くは、家畜されたものではなく、狩猟によって捕獲されたものがほとんど。
自然の中で生息しているため、寄生虫やウイルスを保有している可能性が非常に高い。猪肉を愛犬に食べさせる上で、特に注意しなくてはならないのが、「生」もしくは「加熱不十分」の状態では絶対に与えないということ。
人の場合、寄生虫の感染、E型肝炎、腸管出血性大腸菌など、過去に食中毒になったケースの多くが、この生食、加熱不十分によるものだ。犬に安心して与えるためにも、十分に火を通してから食べさせるようにしよう。
猪肉は真空された冷凍品をチョイスしよう
まず、猪肉を購入する際には「生肉」の状態で購入するのは極力控えたい。
その理由は、細菌の繁殖が心配されるから。そのため、自宅で猪肉を扱うなら真空された冷凍品を探すのがよい。
真空タイプの冷凍品は、新鮮なものを冷凍しているので、細菌の繁殖リスクは生肉で購入するよりも少ないのでおすすめだ。
とはいえ、やはり野生の肉。取り扱いは、一般の精肉を扱う時よりも気を配ろう。使用したまな板や包丁などは使用後に消毒し、犬のゴミ箱あさりも警戒したい。
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加熱は十分に!
次に、「十分に加熱する」。これが最も重要なのだが、慎重になりすぎて、焦げるくらい焼いてしまっては美味しくも何ともない。また、表面ばかり焼いても中心部が加熱不十分では安心して与えることはできない。
そこで目安となるのが加熱時間とその温度だ。
食中毒菌には死滅温度というものがあって、腸管出血性大腸菌、カンピロバクター、サルモネラ属菌などは、75℃の状態で一分以上の加熱をすると死滅する。
これらは、焼く以外にも「茹でる」場合も有効。ただし、表面だけではなく中心部までしっかり火を通すことを忘れずに。自宅で調理する際は、中心温度を測りながら調理すると安心できる。
いずれにしても、よく加熱するのが基本だ!
臭いが気になる場合はハーブの力を借りるのも手
猪肉の臭いが気になるという場合は、塩水でもみ洗いするとよい。2~3回繰り返すことにより臭みが軽減されるので、臭いが気になる方はお試しを。
それでも、普段食べている精肉と違和感を感じる場合は、ハーブの力を借りるのも良し。
犬も食べれるハーブをいくつかピックアップするので、参考にしてほしい。
犬も食べれるハーブはこちらも記事を参考にしよう
さいごに
ジビエとは、狩猟で得た野生動物の肉である。
一見、「野生動物を狩猟して食べるなんてヒドイ!」と感じるかもしれないが、野生動物による農作物の被害などが問題になっており、ジビエは有効的な歯止め方法のひとつとしても考えられている。
よく、イノシシは人里におりてきて畑を荒らすなど何かと話題にはなっているが、これは森林伐採などによって住む場所を奪われていることが原因の一つ。
被害を抑えるために狩猟した野生動物を有効活用するために販売する。何とも納得いくようで、納得いかない部分もあるが、いずれにしても自然の恵みには感謝しつつ味わいたいものだ。